ワシの名前はエンドウカメキチ。老後を自由気ままに生きるのがワシのモットーじゃ。同じ志を持つ近所のジジババの仲間たちと一緒に、今日もどんな冒険が待ち受けているか、楽しみじゃ。
土用の丑にはうなぎを食べるとスタミナが付く。これは、江戸時代、夏に売上が落ち込むうなぎ屋を助けるために、平賀源内のアイデアがきっかけで広まったらしい。しかし、もう何年もうなぎなど食っとらん。最近の物価高で、高価なウナギのかば焼きは、ますます遠のいている。
そんな折、近所にできた外食チェーンのレストランが、うな重のフェアをやると聞いた。国産うなぎを使ったうな重が3000円で味わえるという。よし、ここは奮発して、何年振りか、うな重を食ってみようと決心して、そのレストランにでかけた。
店員さんに案内されて席に着いたが、注文はタブレットで行うという。年寄りだからと言ってナメテもらっては困る。これでも、ワシはデジタルの扱いには自信があるのじゃ。うまそうな、うな重の写真が載ったページに移動し、「注文する」のボタンをタップするだけじゃ。
よし、押すぞ。心の中で気合を入れたが、どういうわけか手の震えが止まらん。これが、3,000円のうな重の重圧か。くそっ。こんなことでは、エンドウカメキチの名折れじゃ。
いったん深呼吸し、心を落ち着けて、もう一度チャレンジだ。迷わず、一気に、押してしまえ。エイっ、と振り上げた人差し指を「注文する」のボタンに一直線に向かわせた。
「ポチっ」。
ほっとした瞬間、店員さんが頭を下げる画面に切り替わった。
「なに!なんと、売り切れとは」。
限定1万食だって。なんじゃそれは。せっかく一大決心して、レストランに乗り込んだのに。仕方がない。今日は、好物のチキンカツ定食で我慢してやるか。
今日の格言
「決めたなら、迷わず押せよ、タブレット カメ」