限界

Story

ワシの名前はクリタミツトシ。老後を楽しく生きるエンドウさんたちの仲間の一人じゃ。まだまだ若いもんには負けられん。七転び八起きの精神にのっとり、どんなハプニングが起ころうが、何度も立ち上がる。前進あるのみじゃ。

この散髪屋は、チェーン店になっていて、1000円ちょっとの価格で丸刈りをやってくれる。自動販売機でチケットを買って、座って順番を待つ。座った順に呼ばれるので、誰にやってもらうかを指名はできない。

トイレに立ってしまうと、順番が後になってしまうかもしれないので、多少、やりたくなっても我慢してしまう。散髪自体は10分で終わるから、ものすごくしたくなったのしても、我慢できるとタカをくくっていた。

ワシの順番が来て、鏡の前に座った。

「二枚刈りで頼んます」

理髪師の兄ちゃんのバリカンが小気味いい音を立てて髪の毛を刈っていく。左半分がキレイにかられたあたりで、便意をもよおすメーターがレッドゾーンに差し掛かってしまった。

「やばい」

何も知らない兄ちゃんは「あと半分行きます」とバリカンを滑らせた時だった。

「限界だ!トイレ!」

勢いよく立ち上がり、一目散にショッピングモールの1階にあるトイレに駆け込んだ。

「何とか切り抜けたか」と思って、おもむろに便座に座ったその瞬間、「ガチャ」という音が鳴った。

「しまった。鍵を閉め忘れた」

トイレに入ってきたのは、買い物途中のエンドウさんだった。

エンドウさんとワシは、お見合い状態になり、二人とも声を失った。

「鍵かけ忘れているぞ」と言い残し、そそくさとドアを閉めて、エンドウさんは立ち去った。 虎刈りのまま、一人取り残されたワシは、便座の上で呆然とし、「今度エンドウさんに会ったら気まずくなるな」などと考えていた。

そこで一句。

「我慢せず、もよおしたときに席を立て クリ」