所有の概念がある社会は生きづらい

Essay

生きづらい世の中です。なんとなく苦しいけど、その原因はわからないという人もいます。でも、自分自身に聞いてみると、生きづらさの原因として、自分自身を縛り付けている鎖が見つかるはずです。まずは、その鎖を見つけ出し、ほどいてみると、心も体も軽くなるかもしれません。

食料不足が起きれば取り合いに…。所有欲がもたらす悲劇

「欲しいものを手に入れたい」「自分のものにしたい」「手に入れたものを失いたくない」という欲求のことを所有欲と言います。ごく自然に湧き出てくる感情ですが、この所有欲が強すぎると、自分自身を苦しめる鎖に縛られてしまいます。

例えば、衣服、食物、住居の衣食住は、人間が生きていく上での生活基盤です。「食」は手に入れた後に食べるのが普通なので、所有している時間は短くなりますが、食料不足で数が限られてくると、取り合いになります。また、衣服や住居は長期間、使用するので、所有欲が湧きやすくなります。 ファッションに興味のある人は、たくさんの衣服を所有し、クローゼットにしまっておきたいという欲求にかられます。中には、高額なブランド品を欲しがる人もいて、衣服にかけるコストが相当大きくなる場合もあるでしょう。そして、どんなにたくさん所有しても、新しい商品が出れば、欲しくなるなど、終わりがありません。

住宅の所有でローン地獄、所有できない時にはネガティブな気持ち

たくさんのブランド品を所有できる環境にある時はいいですが、それができなくなった時、不安やイライラ、自信の喪失など様々なネガティブな感情に襲われてしまう人もいるでしょう。また、所有欲を満たし続けるために、無理な方法でお金を調達して、身を滅ぼしてしまうことがあるかもしれません。

住居についてはどうでしょうか。不動産を所有するには、大きなお金が必要になります。とくに、都会の物件や駅近の物件などは高額で、長い期間のローンを組んで、毎月支払うことになるケースが大半です。不動産を所有したために毎月の返済という重荷を、長期間背負い続けなければなりません。違う場所で違う生き方をしたくなったとしても、所有した住居が鎖になって、簡単には引っ越しする決断できない場合もあるでしょう。 「モノ経済からコト経済へ」という言葉がありますが、今はモノを買うよりも、体験するためにお金を払いたいという人が増えているといいます。また、シェアリングエコノミーというビジネスモデルも登場し、自家用車を買うのではなく、カーシェアを利用する人も増えています。モノに対する所有という概念を捨て始める人たちが出てきているのです。

恋人や子供に対しても…。身近な人にも湧き上がる所有欲。

所有欲が厄介なのは、モノだけではなく、人に対しても、その感情が出てしまうことです。友達や恋人に対して、独占したいという気持ちになることもあるでしょう。また、一緒に生活している家族に対しても、知らず知らずのうちに、その感情を持ってしまっている場合もあります。

結婚については、「家に入る」という明治時代の風習が根強く残っている場合もあり、一家の長が家族の人を所有するという考え方が残っています。そして現代でも、カップルとして交際している時は互いに思いやりがあったけど、結婚で互いを所有し合うようになると、相手に対する感謝や敬意が失われてしまうこともあります。 親の子どもに対する考え方も、無意識のうちに所有を前提にしてしまいがちです。小さいころから世話をしているから、経済的に面倒を見ているから、子供は親の言うことを聞くべきだと考える人もいるでしょう。もちろん、子供を教育するという意味で、正しいこととそうではないことを教えることは大事です。しかし、子供の進路や、友達、好きなことなどについても、親の希望に沿うようにしてほしいと伝えるのは、子供の意思を尊重しているとは言えません。

所有の概念はいつから?貧富の差や戦争の原因にも

結婚生活がうまくいかなくなった時には、子供を取り合いするケースもあります。親が子供を所有するという考え方で取り合いをすると、一緒に住めないほうの親は子供を失ったような気持ちになります。

「子どもは授かりものではなく、預かりものである」という言葉があります。「子どもを授かる」という言葉には、「子供をたまわった」という所有に近いニュアンスがあります。一方で、「子どもを預る」という言葉には、「子供が小さい間は親が育てて、立派に大人になった時に、社会に送り出す」という意味が込められているそうです。

会社と従業員の関係も、所有の考え方に基づいていると、会社との一体感や貢献意欲は湧き上がってきません。「給与を支払っているのだから、従業員は社長の言うことを聞くのが当然だ」という考え方を持って従業員と接していると、敬意を欠いた態度になりがちです。会社と個人が対等な関係を保ち、互いに成長していくことが理想の姿であるとするならば、所有の考え方は上下関係を強く意識させ、その結果、両者が絆を深めることは難しくなります。 人類は、いつのころからか所有の概念を持ったために、持つ者と持たざる者の間に貧富の差が生まれ、争い繰り返してきたと言えます。所有欲には終わりはなく、所有できないことで苦しみます。所有という名の鎖が、生きづらさの原因であることを理解して、そのストレスをなるべく受けないようにすることが大切です。