新聞の見出しは、記事の「看板」のようなもの
新聞にとっての見出しは、ひと目で記事の内容が推測できる「看板」のようなものです。駅売り販売が多かった時代は、駅売りスタンドに各新聞の1面の見出しが並ぶので、見出しが新聞の売上を左右するほどの影響力がありました。
インターネットニュース全盛の時代になっても、見出しによって、コンテンツへの興味を掻き立て、アクセスを集めるための有用なものです。
新聞の見出しを付けた経験のある人は少ないと思いますが、学校での作文の題名や職場での書類のタイトルを付ける機会を持った人は多いでしょう。小説や映画を含め、印象的なタイトルがついていると、中身を知りたいという動機に働きかけることが可能です。
つまり、インパクトのある新聞の見出しがどのように付けられるのかを知っていると、人を惹きつけるものをつくるのに役に立つはずです。
新聞の見出しを付け、レイアウトをする整理記者とは
新聞の見出しを付けるのは、整理記者と呼ばれるプロフェッショナルの仕事です。整理記者の現場は、取材記者とは違い、編集部のオフィスです。原稿のミスを洗い出す校閲記者と並んで、専門的なスキルが必要とされますが、比較的地味な存在です。
校閲記者は、小説やテレビドラマの主人公に取り上げられ、そのプロフェッショナルな仕事ぶりを知っている人も多いと思いますが、整理記者の仕事も職人技です。
整理記者の仕事は、自分の担当するページのレイアウト(記事や写真の配置)を決め、記者が書き、デスクが編集した原稿をもらい、見出しを付けます。原稿を印刷に回す締め切りである降版時間まで余裕がない時は、瞬間的にインパクトのある見出しを付けなければなりません。
まさに言葉を操るプロです。 忙しい読者は、見出しだけを見て、情報を仕入れようとする場合もあります。だから、見出しの基本は、短い言葉で必要な情報を伝えることです。
ニュースのダイジェストの役割を果たす見出しには、読者の目を引き、誰もが理解できる言葉を選びます。では、具体例を見ながら、プロが見出しを付けるときに何を考えているのかを紹介しましょう。
見出しを付ける練習
見出しを付けた経験のない人に記事を読んで見出しを付けてもらうと、全ての要素を詰め込もうとするあまり、文章のように冗長になりがちです。見出しを見ただけで、記事の中身を想像でき、読んでみたいと思わせるようにすることが理想です。
そのためには、記事の中で、何がニュースかを判断し、優先順位を付けることが大事です。架空のスポーツニュースを題材に見出しを考えてみましょう。
サッカーワールドカップ〇〇大会の決勝トーナメント1回戦で、日本代表は後半36分、FW後田大作選手のゴールで先制し、クロアチアの猛攻を耐え、1-0で逃げ切った。
日本代表はワールドカップ決勝トーナメントで初の勝利を果たし、大会前に目標に掲げていたベスト8進出を果たした。後半30分から後田選手を投入した林高元監督の戦術が功を奏した。
記事の中のニュース価値
- サッカー日本代表が、ワールドカップで初のベスト8に進出し、目標を達成した。
- FW後田選手の決勝ゴールを守り切り、クロアチアに勝利した。
- 林高元監督の選手交代戦術が当たった。
まずは、見出しの文字数を考えずに、ニュース価値だけで見出しを付けてみます。
この試合が、決勝トーナメントではなく予選で、クロアチアに勝つことがものすごく価値のあることであれば、2番目の要素を主見出しにする選択肢もありますが、この場合は、サッカー日本代表が目標に掲げていたワールドカップベスト8進出を果たしたので、主見出しは以下のようにします。
サッカー日本、初のワールドカップベスト8進出
続いて、サブ見出しには、この試合の内容を表します。ヒーローである後田大作選手のゴールを守り切って、強豪のクロアチアを無得点に抑えた(サッカーではクリーンシートと言うそうです)試合内容をまとめます。
FW後田の決勝点を守り切り、クロアチアを下す
見出しをつける際の基本原則
新聞の段見出しの場合、主見出し(1本目の見出し)は7~10文字程度、脇見出し(2本目の見出し)は8~10本程度を目安にします。このため、言葉を短くして、省けるものを探す作業が必要になります。
まず、なるべく文字数を減らすために、いらない言葉、省略できる言葉を探します。その作業は、見出しの基本原則に沿って行います。
略せるものは略します
- サッカー日本代表は、サッカー日本、日本など短くします。サッカーの場合、監督の名前を取って、林高J(ジャパン)などと言うこともあります。
- ワールドカップはW杯
- ベスト8や準々決勝進出は8強
- 試合を決めたゴールは決勝ゴールや決勝点
名前は苗字(ファミリーネーム)で、スポーツ記事の場合は敬称も省きます
FW後田大作選手は、FW(フォワード)はポジションの略称なので省きます。また、スポーツの場合は敬称や肩書も略し、後田だけにします。
「てにをは」などの助詞は省けるものは省きます
メーン見出しは「主語+述語」のシンプル形で
述語は体言止め(名詞で終わる)で
例題1の解説と解答例
主見出し
林高J、初のW杯8強
後田決勝点、クロアチア破る
このように、メーンの見出しを主見出し、サブの見出しをサブ見出し、袖見出しなどと言います。
見出しの文字数は、主見出しは9・5本、サブ見出しが12・5本となりました。見出しの文字数の数え方は1文字を1本、「、」は0・5本とカウントします。クロアチアという国名が長いので、見出しも長めになりました。
短くするには、国名を漢字で表記する方法もあります。アメリカは米、フランスは仏などですが、クロアチアは漢字表記ではなじみがないので、後田決勝点か、クロアチア下すのどちらかを諦めるなどの方法を検討するのが良いでしょう。
記事の内容によっては、2本の見出しを使っても、原稿の中のニュースの全ての要素を入れることは難しいし、レイアウトの都合上、見出しが主見出し1本になってしまうこともあります。このように、整理の仕事は、ニュースの要素に優先順位を付けて、効果的に表現することが大事になります。