ニュース価値から考える見出しのつけ方

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ニュース価値が複数ある場合の見出しのつけ方

記事の中で重要なニュース要素が複数あり、ニュース価値の判断が分かれる場合があります。その時は、読者にとってのニュース価値は何なのかを基準に考えます。複数のニュース価値を1本の見出しで表せる場合もありますが、2本以上に分ける場合もあります。

例題1

〇〇五輪の陸上男子100メートルの決勝で、ウサイン・ナット選手(ジャマイカ)が9秒60の世界新記録で優勝した。

この記事の中で、考えられるニュースの要素をあげてみます。

  • ウサイン・ナット選手が〇〇五輪の陸上100メートルで優勝した(金メダルをとった)
  • ウサイン・ナット選手が陸上男子100メートルの世界新記録を出した。

陸上の100メートルはスポーツ競技の花形です。4年に1回の五輪で金メダルを取ったことはニュース価値が高いと言えます。同じように、100メートルの世界新記録は「人類最速」の記録であり、これもニュース価値は高いでしょう。

思わず、次のように見出しに全部盛り込んでしまいたくなります。

ジャマイカのウサイン・ナット選手が〇〇五輪の陸上男子100メートルで9秒60の世界新記録で優勝

ほとんど記事の文章のままですね。文字数をカウントすると44文字です。これでは新聞の見出しにならないので、先ほどの原則に従って、見出しらしくしていきましょう。

例題1の解答例と解説

解答例を先に紹介します。

ナット9秒6世界新V

ポイント

  • 名前は苗字(ファミリーネーム)で

ウサイン・ナット選手→ナット

  • 略せるものは略します

世界新記録→世界新 優勝→金、V

  • てにをは」などの助詞は省けるものは省きます

メーン見出しは「主語+述語」のシンプル形で

述語は体言止め(名詞で終わる)で

ナット9秒6世界新Vは10文字です。

「V」が砕けすぎて、違和感がある場合は、「金」にしたり、「優勝」のままでも大丈夫です。

袖見出しには「〇〇五輪、男子100メートル、ジャマイカの選手」などの必要な情報に優先順位を付けて入れていきます。

読者にとってのニュース価値かを考える

ニュース価値が複数あるときは、読者にとってのニュース価値を考えます。整理記者は原稿を読み、どれがニュースなのかを考えますが、その時、読者像を頭に入れなければなりません。

マーケティング用語で「ペルソナ」というと、サービスや商品の典型的なユーザー、お客様像のことを示します。見出しを付けるときも、同じように、誰に読んでもらう記事なのかを考えます。

見出しを2本に分ける場合をみてみましょう。

例題2

〇〇五輪の陸上男子100メートルの決勝で、ウサイン・ナット選手(ジャマイカ)が9秒96で優勝した。△△五輪金メダリストのマイク・コージー選手(米国)は9秒88で2位だった。

日本人初の決勝進出を果たした日本記録を持つ佐藤寿勇(ひさお)選手は、10秒02で7位に入賞した。

この記事は、ナット選手は優勝ですが、記録は9秒96と世界レベルでは平凡な記録です。さらに、2位の選手と7位に入賞した日本人選手の情報が記載されています。

ニュースの要素を挙げてみます

  • ジャマイカのナット選手が男子100メートルで優勝
  • 2位には米国のマイク・コージー選手が入った
  • 日本の佐藤寿勇(ひさお)選手が五輪の男子100メートルで初の入賞を果たした

この場合、どの要素のニュース価値を高く評価するかは、編集者の中でも意見が分かれる可能性があります。

例題2の解答例と解説

「五輪の100メートルの優勝は花形競技なので、やはり、人類最速の男が決まった(1)を推す」という意見もあれば、「日本の読者に読んでもらう新聞だから、日本選手で初めてファイナリストになった佐藤選手の結果を強調すべきだ」との考えもあります。

さらに、△△五輪の王者、マイク・コージー選手が注目の選手だった場合、二つ目の要素のニュース価値も捨てたものではありません。最終的には編集長が判断して、佐藤選手の要素をメーン見出しにすることが決まったとします。その場合、以下のような見出しが想定されます。

窓見出し △△五輪男子100
主見出し 佐藤、日本初7位入賞
袖見出し ナット金、コージー銀

見出しの本数が複数になる場合、見出しのタイトルとなるような役割を果たす「窓見出し」を置くことがあります。

メーン見出しに日本選手の初の入賞を置きました。このように、見出しは、原稿の中で、ニュース性の高いもの、または最も訴えたいことを凝縮したキャッチフレーズです。見出しが上手くつけられるということは、原稿で何を訴えたいかが頭の中でまとまっているということです。

原稿を書くことに慣れている人は、見出しから考えることもできるはずです。原稿を読んで、見出しをつけるのは、整理記者の仕事ですが、原稿の書き手である現場の取材記者は、整理記者が見出しをつけやすいように、原稿の頭に「仮見出し」をつけることが求められます。

仮見出しを付ける作業は、原稿をまとめる際にも役立ちます。